近年、シンガポールの教育制度が世界的に注目されています。学習到達度調査(PISA)では常にトップクラスの成績を誇り、特に数学や科学の分野で優れた成果を上げています。また、英語と母語を併用するバイリンガル教育が義務化されており、グローバルな人材育成に力を入れている点も特徴です。
この記事では、シンガポールの教育制度の概要やメリット、日本との違い、シンガポールで教育を受けるための方法などを解説します。最近では、子どもにシンガポールで教育を受けさせるために、家族での移住を検討している方も増えています。興味があれば、ぜひ記事の内容を参考にしてください。
シンガポールの教育制度の概要

まずはシンガポールの教育制度の概要として、基本的な進学の流れを解説します。
シンガポールの教育の流れ
シンガポールの教育制度は、日本と同様に小学校から大学までの段階がありますが、進学ルートは成績に応じて細かく分かれています。
① 初等教育(Primary):6年間
- 小学校は6年間(Primary 1~6)で義務教育に該当
- 小学校卒業時にPSLE(Primary School Leaving Examination)という全国統一試験を受験
- PSLEの成績に応じて、中学での進学コースが決定される
② 中等教育(Secondary):4~5年間
中学(Secondary School)は、PSLEの成績によって以下のように3つの異なるコースに振り分けられます。
- Expressコース(4年間):成績優秀者向け。大学進学を目指す最短ルート
- Normal Academicコース(5年間):一般的な学習ペースの学生向け
- Normal Technicalコース(4年間):実践的な職業訓練を重視
③ 高等教育(Post-Secondary):2~3年間
中等教育終了後、成績に応じて進学先が決定します。主な選択肢は以下のとおりです。
- ジュニアカレッジ(Junior College / JC):2年間(大学進学準備)
- ポリテクニック(Polytechnic):3年間(専門技術・職業教育)
- ITE(Institute of Technical Education):実務・技術教育中心
このように、シンガポールでは成績によって進学ルートが決まる仕組みが採用されている点が、日本の一律教育とは大きく異なります。
能力別教育(ストリーミング制)とは?
シンガポールの教育制度の特徴のひとつが「ストリーミング制(Streaming System)」です。ストリーミング制は、小学校卒業時に全国統一試験(PSLE)を受験し、試験結果に応じて、中学進学時に3つの異なるコースに振り分ける制度です。
しかし、ストリーミング制は「学力による固定化」「教育格差の助長」といった問題点も指摘されており、シンガポール政府は2024年から4年かけてストリーミング制の段階的な廃止を進めています。これにより、より柔軟な学習環境の整備が期待されています。
シンガポールの教育の特徴とメリット

シンガポールにおける教育の主な特徴と、子どもに受けさせるメリットを見てみましょう。
国際的に高い学力水準
シンガポールの学生は、OECDの学習到達度調査(PISA)において数学・科学・読解力などの成績で常に上位にランクインしています。この高い学力水準の背景には、徹底した教育管理と競争意識の強い学習環境があるといえるでしょう。
学校では、理論だけでなく問題解決能力を重視し、実践的な知識の習得を促すカリキュラムが組まれています。また、学習塾(Tuition Centre)に通う学生が多く、学校外での補習も学力向上の大きな要因のひとつです。
バイリンガル教育
シンガポールでは英語を公用語としつつ、中国語・マレー語・タミル語の母語教育を義務付けています。バイリンガル教育の主な目的は、多民族社会の文化を維持しながら、国際的な競争力を高めることです。
授業の大半は英語で行われますが、母語教育を通じて文化や歴史についても学び、アイデンティティを形成する機会が与えられます。この教育モデルにより、シンガポールの学生は高い英語力と母語の両方を習得し、グローバルなキャリアの選択肢を広げられます。
教師の質が高い
教師の質を高めるために、厳格な採用基準が設けられていることも特徴です。教員になるためには、大学卒業者の上位3分の1に入る成績を収める必要があり、政府が提供する専門トレーニングを受けることが必須です。
また、教員向けに定期的な研修制度が行われ、新しい教育技術や指導法を学べます。さらに、政府は優秀な教師に対して昇進の機会を与え、教育の質を維持する仕組みも整えています。これにより、シンガポールの学生は高い指導力を持つ教師のもとで質の高い教育を受けることが可能です。
最先端の教育制度
シンガポール政府は時代の変化に対応するために、教育改革を積極的に進めています。2024年からは、学力による進学ルートの固定化を避けるためにストリーミング制が廃止され、より柔軟な学習環境の整備が進められる予定です。また、21世紀型スキルの習得が重視され、思考力や創造力、問題解決能力を育む教育が強化されています。
特にSTEM(科学・技術・工学・数学)教育が推進され、プログラミングやデジタルスキルがカリキュラムに組み込まれました。さらに、AIを活用した個別指導やオンライン授業の導入により、生徒一人ひとりの学習進度に合わせた教育が実施されています。
シンガポールの教育のデメリットと問題点

シンガポールの教育制度は国際的に高く評価されていますが、いくつかのデメリットや課題が指摘されているのも事実です。主な問題点を把握しておきましょう。
受験競争が激しい
シンガポールの教育制度では、特に小学校卒業時のPSLE試験が将来の進学先を大きく左右します。この試験の成績によって中等教育のコースが決まり、大学進学の可能性やキャリアの選択肢にまで影響を及ぼすため、多くの家庭が子どもの学習に強いプレッシャーを感じています。
シンガポールの小学生は学校の授業だけではなく、放課後や週末に学習塾に通う生徒が非常に多く、幼少期から過度な学習負担を強いられることになりました。こうした受験競争の厳しさはストレスや精神的な負担の増加につながり、子どもの成長や幸福感に影響を与える恐れがあります。
教育格差の問題
シンガポールでは能力別に分かれるストリーミング制度が長らく続いていましたが、2024年から段階的な廃止が進められています。しかし、それでも成績による進学ルートの固定化が完全になくなるわけではなく、依然として教育格差の問題は残っているのが実情です。
裕福な家庭では高額な学習塾や家庭教師を利用し、子どもに最良の教育環境を提供できるでしょう。しかし、経済的に余裕のない家庭ではこうした追加教育を受けることが難しく、成績格差が広がる傾向にあります。このように、家庭の経済状況が教育機会の不平等につながる問題は、シンガポールの教育制度の大きな課題のひとつです。
教育費用が高い
シンガポールの公立学校は基本的に低コストで教育を提供していますが、外国人が公立学校に通う場合、授業料が高額になります。例えば、永住権を持たない外国人がシンガポールの公立学校に通う場合、年間数十万円以上の学費がかかることもあります。
さらにインターナショナルスクールに通う場合は、年間300〜500万円以上の費用がかかることも珍しくありません。加えて、学習塾や家庭教師を利用する家庭が多いため、教育費の総額はさらに増加します。こうした教育費の高さは外国人家庭にとって大きな負担となるため、シンガポールでの子育てを検討する際の重要なポイントです。
シンガポールと日本の教育の違いを比較

シンガポールと日本の教育制度には、それぞれ特徴があります。ここでは、学力レベルや英語教育、進学システム、受験競争の違いを比較しましょう。
学力レベル
OECDの学力調査によると、シンガポールの学生は数学・科学・英語の分野で世界トップクラスの成績を収めています。日本も上位ですが、数学や科学のスコアではシンガポールにやや及びません。
シンガポールの教育は論理的思考や問題解決能力を重視し、実践的な内容が多いのが特徴です。一方、日本は基礎学力の定着を重視し、幅広い知識を学ぶ点に強みがあります。
英語教育の違い
シンガポールでは英語が公用語であり、学校の授業も基本的に英語で行われます。一方、日本では英語は外国語として学ぶ科目の1つであり、日常的に使用する機会が少ないため実践的な英語力の定着は難しいでしょう。
シンガポールの学生は、小学校から英語と母語(中国語・マレー語・タミル語)のバイリンガル教育を受けるため、英語を自然に使いこなせるようになります。日本では英語教育の開始が遅く、特に会話能力が課題です。
進学システムの違い
シンガポールでは、成績によって進学ルートが細かく分かれています。小学校卒業時のPSLEの結果で中学のコースが決まり、その後の進学先にも影響を与えます。中等教育では、Express、Normal Academic、Normal Technicalの3つのコースがあり、それぞれ異なるカリキュラムが組まれるのが特徴です。
一方、日本では中学・高校の教育課程が比較的一律で、学習内容の違いはそれほど大きくありません。高校受験や大学受験はありますが、小学校卒業時点で進路が決まるシンガポールと異なり、柔軟な学習環境が整っています。
受験競争の違い
シンガポールでは、小学校卒業時のPSLEが進学先を決める重要な試験です。10〜12歳という若い年齢で将来の進路が決まるため、学生や親の負担が大きく、多くの家庭がPSLE対策のために学習塾を利用しています。そのため、受験競争が非常に激しい点が特徴です。
日本では、主要な受験は高校受験と大学受験の2回であり、中学受験をする家庭は一部に限られます。また、日本では「総合型選抜」や「推薦入試」など、試験以外の方法で進学できる制度もあり、一発試験に依存しない選択もあります。この点が、シンガポールの受験制度との大きな違いといえるでしょう。
日本人がシンガポールの教育を受けるには

シンガポールの教育制度は国際的に高く評価され、日本人家庭の間でも現地の学校に子どもを通わせたいというニーズが高まっています。日本人がシンガポールで教育を受けるための方法を見てみましょう。
シンガポールへの留学・進学の方法
日本人がシンガポールで教育を受けるには、短期・長期の留学や現地学校への編入が主な選択肢となります。小学生や中学生の場合、親が就労ビザを取得し、親子で移住するケースが一般的です。高校生・大学生は、交換留学や現地の教育機関への直接入学を選ぶこともできます。
シンガポールにはジュニアカレッジ(Junior College)やポリテクニック(Polytechnic)といった教育機関があり、実践的なスキルを学び、卒業後の進学や就職の選択肢を広げることが可能です。特に、ポリテクニックは専門的な技術を身につけられるため、将来のキャリア形成に役立つでしょう。
外国人向けの教育機関
外国人向けの教育機関として、インターナショナルスクールと公立学校の2つの選択肢があります。
インターナショナルスクールは、日本人向けを含む多様なカリキュラムを提供しており、国際バカロレア(IB)やイギリス式カリキュラムを採用する学校も多く、グローバルな教育を受けることが可能です。
シンガポールの公立学校への編入も可能ですが、入学には試験(AEIS)の合格が必要で、外国人の受け入れ枠は限られています。公立学校の授業は英語で行われるため、日本からの編入生にとって言語の壁が課題となりやすいでしょう。
学生向けのビザについて
シンガポールで長期的に教育を受けるには、学生ビザ(Student Pass)の取得が必要です。
Student Passはシンガポール政府が認可する教育機関に入学することで申請でき、インターナショナルスクールや公立学校が対象となります。学校がビザ申請をサポートするケースも多いため、事前に確認しておくとスムーズです。
また、親子留学の場合、親は就労ビザ(EP、 S Passなど)や長期滞在ビザ(LTVP)などを取得し、子どもとともに滞在できます。
このようにシンガポールでの教育を検討する際は、学校選びとビザ申請の手続きを十分確認することが重要です。シンガポールのビザの種類や申請方法などに関しては、以下の記事も参考にしてください。
>>「シンガポールの就労ビザ|条件と種類一覧、申請の流れ【2025最新】」
近年シンガポールに移住する日本人が増えている
近年、シンガポールに移住する日本人が増えています。その背景には、シンガポールの経済成長やビジネス環境の良さ、給与水準の高さなどが挙げられます。特に、外資系企業やスタートアップ企業がシンガポールに拠点を構えるケースが増えており、日本からの転職者も多く見られます。
また、シンガポールは治安が良く子育て環境が整っていることも、日本人家庭が移住を検討する理由のひとつです。教育の質の高さに加え、医療制度の充実やインフラの整備が進んでいるため、家族連れでも安心して暮らせるでしょう。
シンガポールの給与水準の高さについては以下の記事でも紹介しているので、あわせてご覧ください。
>>「シンガポールの平均年収は?高い給与を狙える職種の共通点も解説」
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>>「シンガポールに移住・転職するメリットと注意点!ビザや条件も解説」