シンガポールのフレキシブルワークアレンジメント(FWA)について

シンガポールのフレキシブルワークアレンジメント(FWA)について

2024年12月以降、シンガポールでは多くの企業で「柔軟な勤務形態による働き方(FWA:フレキシブルワークアレンジメント)」の導入が実施される予定です。

日本でもコロナ禍以降、フレックス制度を導入する企業は増えましたが、シンガポールでは政府を中心に柔軟な働き方が推進されています。この記事ではFWA制度の概要や、どのような働き方が可能になるのか、また懸念点などについても解説します。

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フレキシブルワークアレンジメント(FWA)とは

シンガポールでは2024年12月1日から「柔軟な勤務形態に関するガイドライン」の運用が開始されます。このガイドラインは、雇用主が引き続き労働条件を決定する権限を有することを認めつつ、従業員がFWAを申請しやすくすることが目的です。

対象となるのは試用期間を終えた全従業員であり、パートタイムや契約社員も含まれます。FWAの実施により従業員のワークライフバランスを向上させると同時に、企業の競争力の強化が期待されています。

フレキシブルワークアレンジメント(FWA)の種類

FWAでは企業にもよりますが、時間・場所・業務量の観点から適切な勤務形態の選択が可能です。具体的にどのような働き方ができるのか、主なものを紹介します。

時間

出勤する時間を柔軟に設定することで混雑を避けるために通勤時間をずらす、予定に合わせて休日を個々に設定する、といった働き方ができます。主な例を見てみましょう。

  • Compressed Work Schedule(勤務時間を減らす)
  • Creative Scheduling(スケジュールを柔軟に設定)
  • Flexi-Hours(フレックスアワー)
  • Staggered Time(出勤時間をずらす)

Compressed Work Schedule(勤務日程を減らす)

勤務時間はフルタイムと同様のままで、出勤日数を減らす働き方です。締め切りやシフトの関係で出勤しなければならない日程が多い職場には適しませんが、個人に裁量がある場合に有効です。

Creative Scheduling(スケジュールを柔軟に設定)

週によって出勤する曜日を決めたり休日を自由に設定したり、個人のニーズに合わせたスケジュールを設定します。職場の都合がつくなら、週によって休む曜日を変更することもできるでしょう。例えば家族の送り迎えや行事ごとなど、予定に合わせて平日を休みに設定できます。

Flexi-Hours(フレックスアワー)

日本でも導入されているフレックス制度です。基本的に規定された時間(コアタイム)に働けば、あとは自由に勤務時間を設定できる場合が多いでしょう。例えばコアタイムが10時から15時に設定されているなら、その時間帯さえ勤務すればその他の時間は柔軟にスケジュールを決められます。

出勤・退勤時間だけでなく休憩時間もフレキシブルに決められるため、仕事の分担や家事・育児との両立に便利です。

Staggered Time(出勤時間をずらす)

始業・終業時間を各自の都合でずらせます。例えば、通常の9時から17時の勤務時間を8時から16時や10時から18時に変更することで、通勤ラッシュを避けられ、また個々のライフスタイルに合わせた働き方が可能になるでしょう。

シンガポールの通勤ラッシュは日本ほど混雑するわけではありませんが、当然ながらラッシュアワーは存在します。シンガポールの通勤事情については、こちらの記事でも紹介しています。

>>「シンガポールの鉄道、タクシー、バスなど交通・通勤事情を解説!」

業務量

FWAではワークシェアリングや臨時雇用など、業務量に合わせた柔軟な雇用形態を選ぶことも可能です。主な働き方には以下が挙げられます。

  • Job Sharing(ワークシェアリング)
  • Phasing In or Out (段階的導入・退職)
  • Interim Work(臨時雇用)
  • Part-Time Work(パートタイム)

Job Sharing(ワークシェアリング)

ワークシェアリングは、2名以上のパートタイム従業員で1名のフルタイム従業員の責任を分担する働き方です。例えば、2名のパートタイム従業員が週3日ずつ働いたり、午前と午後で分けたりといった方法で、1名のフルタイム従業員の業務をカバーします。

これにより、従業員はフルタイム勤務の負担を減らしつつ業務を共有できます。早期退職や産休を希望する社員との引き継ぎ・受け渡しの際などに有効です。

Phasing In or Out(段階的導入・退職)

パートタイムからフルタイムへの段階的なシフトや、またはその逆も可能です。例えば、育児休業後に段階的にフルタイムに戻る場合や、退職に向けて徐々に勤務時間を減らす方法が考えられます。

社員のライフイベントの変化は周りの従業員や本人、人事の面でも負担がかかりますが、段階的にシフトすることでそれぞれの負担を減らせるでしょう。

Interim Work(臨時雇用)

期間を限定した雇用やプロジェクトベースでの雇用形態です。例えば、特定のプロジェクトが完了するまでの期間を限定して雇用される場合や、一定期間のみ必要なスキルを持つ人材を臨時に雇用する方法、また季節労働・週末労働のようなアルバイトなども含まれます。

これにより企業は必要な時に必要な人材を確保でき、従業員にとってもスキルを活かした柔軟な働き方や、空いた期間の有効活用ができます。

Part-Time Work(パートタイム)

パートタイムは日本と同様、一般的に時給で働く人材のことです。シンガポールではパートタイムは1週間に35時間未満という決まりがあります。家庭の事情に合わせて働き方を調整でき、週によって5日だったり1日未満だったりといった働き方も選べるでしょう。

場所

フレックス制度とリモートワークを推進することで、在宅勤務が可能になります。これにより通勤時間を削減し、効率的に仕事ができる環境が整います。

リモートワークを安全かつ効果的に進めるためには、ネットワーク環境の整備やセキュリティ管理なども徹底して行う必要があるでしょう。

フレキシブルワークアレンジメント(FWA)施行によるメリット

FWAの導入には雇用主、従業員ともにメリットがあります。主なものは以下のとおりです。

  • 人材を確保しやすくなる
  • コンプライアンスを遵守しやすくなる
  • 生産性の向上
  • 企業のイメージ向上

人材を確保しやすくなる

個人的な事情による人材の流出を防ぎ、また新規採用においても優秀な人材を確保しやすくなります。例えば、育児や親の介護などの理由でフルタイム勤務が難しい場合でも、FWAを活用すれば柔軟なスケジュールで働き続けやすいでしょう。

これは企業にとってだけではなく、長く働いてきた従業員にとっても大きなメリットといえます。さらにフレキシブルな働き方を提供することで、求職者に対しても魅力的な企業としてアピールできます。

コンプライアンスを遵守しやすくなる

従業員が柔軟な働き方を選択するにあたり、雇用主は透明性を確保してFWAを運用しなければなりません。

これまでシフト管理などが不明瞭だった企業も、新たにガイドラインに沿った運用や承認プロセスを整備する必要があります。これにより、公正性やコンプライアンスの確保につながるでしょう。

生産性の向上

従業員が自身のライフスタイルに合わせて働けることで、仕事に対するモチベーションや生産性の向上が期待できます。

例えばリモートワークを導入することで、通勤時間の削減や集中しやすい環境での作業が可能になるでしょう。時短勤務の場合は短い時間で効率的に結果を出せるよう、メリハリのある働き方が期待できます。

企業のイメージ向上

柔軟な働き方を提供する企業は、従業員のワークライフバランスを重視する企業としてのイメージが向上します。これにより優秀な人材を引きつけるだけでなく、従業員の満足度が向上し、離職率の低下にもつながるでしょう。

フレキシブルワークアレンジメント(FWA)実施における注意点

FWAを実施する際には、従業員・企業ともに注意点があります。以下で内容を見てみましょう。

従業員の責任

従業員は責任を持って勤務形態を選択することが求められます。例えば、フレックスアワーを選択する場合でも、業務の締め切りを守ることやチームメンバーとの連携を怠らないことが重要です。

また自由な働き方を選択することで、顧客に迷惑をかけてしまうリスクもあります。そうならないために、企業側は従業員と十分コミュニケーションを重ね、信頼関係の構築や教育により理解を促すことを意識しましょう。

企業側の要件整備

企業側はFWAの申請・承諾のプロセスや要件を整える必要があります。また、従業員が安心して申請できる環境を整えることも重要です。それにより従業員がFWAを活用しやすくなり、企業側もスムーズな運用が実現しやすくなるでしょう。

また、リモートワークやフレキシブルな勤務形態を支えるためには、インターネット環境をはじめとした適切な技術的サポートの整備が必要です。例えば、セキュリティの高いリモートアクセス環境の構築や、オンラインコミュニケーションツールの導入などが求められます。

社内資料を持ち出すための要件やリモートでのアクセス権限の設定なども、さまざまなケースに対応できるようにしておく必要があります。

政府から企業への支援について

企業が効果的なFWAを導入して持続的な運用を行うためには、前項のような環境や要件の整備が必須です。一方で、通常どおり日常業務を行いながら、有効な環境を整えていくことは簡単ではない場合があるでしょう。

シンガポール政府は企業のFWA導入に際し、さまざまな支援を提供しています。例えば以下のような機関は、FWAを導入する企業を支援するためのワークショップの開催や、教育資料の配布、助言サービスなどを実施しています。

  • 公正進歩雇用慣行の三者連合(TAFEP:Tripartite Alliance for Fair and Progressive Employment Practices)
  • シンガポール国家雇用者連盟(SNEF:Singapore National Employers Federation)
  • 中小企業協会(ASME:Association for Small and Medium Enterprises)
  • 人事専門家協会(IHRP:Institute for Human Resource Professionals)
  • 中小企業センター(SME Centres)

FWA導入に向けて不明点がある場合は、上記機関を頼るのも1つの方法です。

FWAガイドラインの実施における懸念点・デメリット

FWAの導入には多くのメリットがありますが、いくつかの懸念点や各社におけるデメリットも考えられます。

  • 労働市場の変化
  • 採用・給与・人事への影響
  • コストが発生する
  • 労働管理の複雑化
  • 社内コミュニケーションの不足

以下でそれぞれ解説します。

労働市場の変化

まず、場所的な制約がなくなることで、コストを抑えるためにマレーシアからのリモートワーカーを雇う企業が増えることが考えられるでしょう。企業にとってコストの削減は良いことですが、ローカル人材特有の利点が小さくなることで労働市場のバランスが多少なり変わることが懸念されています。

採用・給与・人事への影響

今後の採用・給与・人事に関する慣行への影響が不明瞭である点も挙げられます。さまざまな企業が同時期に新たな制度を導入するため、今後の給与体系や人事制度、採用活動などへの中長期的な影響がどの程度であるのか、まだまだ把握できない状態です。

コストが発生する

今回を機にリモートワークの環境を整える場合、ITインフラ構築にコストがかかることも考えられます。また従業員への教育として研修なども行う場合、一時的に時間や負担がかかるでしょう。

労働管理の複雑化

フレキシブルな勤務形態を導入することで、労働管理が複雑になる恐れがあります。従業員の勤務時間の管理や、業務の進捗管理が単純ではなくなるでしょう。対策としては、適切な管理ツールの導入などが考えられます。

社内コミュニケーションの不足

リモートワークやフレキシブルな勤務形態を導入することで、社内コミュニケーションに課題が生じることも懸念の1つです。例えば従業員がオフィスにいない場合、チームメンバー間のコミュニケーションが不足し、業務の連携がスムーズに行えないことが考えられます。対策としては、定期的なオンラインミーティングや、チャットツールの活用が有効です。

シンガポールでフレキシブルに働くには

シンガポールは移住先として人気が高く、転職・就職先に選ぶ日本人は多いといえます。さらにFWAの導入により、従業員の働きやすさがますます向上することが期待されるため、いっそう人気が高まる可能性もあるでしょう。

キャリアアップを目指す働き盛りなビジネスパーソンをはじめ、子育てをしながらフレキシブルな働き方を求める方にも良い環境といえます。シンガポールで仕事を探すなら、現地に精通したエージェントを利用するのがおすすめです。

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FWAの導入は懸念点もありますが、企業・従業員ともにメリットの大きい施策といえます。もともとシンガポールは基本的に通勤時間が短い人が多く、残業も少ない傾向にありますが、今後よりいっそう多くの企業で働きやすい環境が整備され流ことが期待されるでしょう。

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シンガポールへの移住に興味がある方には、以下の記事もおすすめです。

>>「シンガポールに移住・転職するメリットと注意点!ビザや条件も解説」

>>「シンガポールで働く大手企業出身者が語る!日本とのギャップや内情」

参考:日本貿易振興機構「在宅勤務など柔軟な勤務形態のガイドライン、12月から運用開始」Government of Singapore「Tripartite Guidelines that Shape the Right Norms and Expectations Around Flexible Work Arrangements to Come into Effect on 1 Dec 2024

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